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宇多田ヒカル「俺の彼女」の歌詞に込められた意味について~「男女」という性別を超えたい

宇多田ヒカルさんがことし9月28日に、およそ8年ぶりにニューアルバム「Fantome」をリリースしました。当日に買いましたがすごく良かったです!!

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 その二曲目に収録されている「俺の彼女」について今回は考察したいと思います。

 

男女カップルの彼氏・彼女両方の視点から、それぞれの思いが歌われています。

 

俺の彼女はそこそこ美人 愛想もいい…

俺の彼女は趣味や仕事に干渉してこない…

 

この部分は彼氏目線ですね。歌い方も巻き舌を使ったり、ワイルドな感じです。

どうやら彼女はそこそこ美人で、気の利く子で、彼氏の帰りが遅くてもいちいち細かく聞かないタイプのようです。

いい彼女だな~。と思うでしょうか?

 

そんな彼女はしかし、仮面を被っているようです。

 

あなたの隣にいるのは私だけれど私じゃない 

女はつらいよ 面倒と思われたくない

 

本当は愛想も「よくしている」だけだし、帰りが遅いとやっぱり気になってしまいます。だけど、面倒な女だと思われたくないから我慢しているんですね。

歌い方もここでガラッと変わり、高音でせつなく歌い上げます。

ここで「女はつらいよ」というフレーズが使われていますが、同名のドラマから、ふつうは「男はつらいよ」ですよね?寅さんのように「キレイな女の人に惑わされ、振り回される人情味溢れる男」のイメージをこの言葉とともに思い出すんじゃないでしょうか。

たしかに私もそんな男性の気持ちは分かりますが、重要なのは、「男はつらいよ」を使う時、つねに女は客体であるということです。「男を振り回す魅力的な存在」として扱われるだけで、女性側の気持ちが見えてきません。

そこで宇多田ヒカルは、この歌で「男に対する女側の気持ち」を男ー女と交互に配列することで明らかにしながら、「女はつらいよ」というフレーズをスパイスとして挿入しているのです。

 

俺の彼女は済んだ話を蒸し返したりしない 

クールな俺は敢えて聞かない 余計なこと

 

彼氏ももしかしたら彼女の本心が気になっているのかな?とも思いますが、それこそ彼女に面倒だと思われたくないから「敢えて聞かない」んですね。

「クールな俺」というのは多分嘘で、

「俺には夢が無い 望みは現状維持 いつしか飽きるだろう つまらない俺に」

ここが本音ですね。w

彼女でさえそうしないのに、自分の方が「細かいことを聞く」なんて「女々しい」ことできないし、いざ自分のことも正直に話すとなったら、つまんない中身がバレて、彼女に飽きられると不安なのでしょうか。

好きだから幻滅されたくないし、別れたくない。

でも、彼女の方はもっと聞いてほしいし、話し合いたいのでしょう。中身がわかっても、つまんない奴だなんてきっと思わないでしょう。

好きだから幻滅しないし、別れない。

お互い深いところではおなじ気持ちなのに、齟齬が生まれているのがもどかしいです。

「狐と狸の化かし合い」はいつまで続くのでしょうか。

 

今までは片方の立場からの歌でしたが、

 

カラダよりずっと奥に招きたい…

カラダよりもっと奥に触りたい…

 

の部分で、双方の想いが重なり合います。

男女といえばカップルにもなりやすいし、異性だからセックスも一番深いところまで重なり合えます。

でもそんなマジョリティにはマジョリティなりの悩みがあります。

「違う性別で考え方が違うからこそ、分かりあえなくて苦しい」

深く重なり合う身体と比べてみて、なんと自分たちの心の距離の遠いことか。

「性別を超えた愛」とすると、どうしても同性間の愛情を想起してしまいますが、それはきっと男女間の愛があたりまえすぎて「性別を超えた」なんて形容詞をつける必要がないから。

よく考えると、男女という性別の壁を越えて愛し合っているのだから。「性別を超えた愛」というのは男女間の愛にあてはめてしかるべきです。

 

また、セックスするときの構造的な意味合いからカラダよりずっと奥に「招きたい」の方が女性、「触りたい」の方が男性ともとれますが、ここでは身体の関係以外に精神の関係も歌われていると思うので、あまり限定しないで、流動的なイメージを持った方がベターだととらえています。

 

フランス語の部分は、一行目と三行目はそのまま「カラダよりずっと奥に招きたい…」「カラダよりもっと奥に触りたい…」でしょう。

そして二行目と四行目ですが、まったくフランス語はわからないので検索してみると、「私の真実を見つけてくれる人」と「永遠、永遠」だそうです。

 

この二人にとって、お互いが「真実を見つけてくれる人」で「永遠のパートナー」になるかどうかわかりませんが、お互いがそういう存在を求めているのは事実でしょう。

 

ラストの「カラダより…」とフランス語のところはすごく幻想的なメロディーで、前半のかけあいのところと曲調がまったく違い、その対比もクセになる曲です。